第16章 動き出した真相
❁❁❁ 小鳥遊音晴 ❁❁❁
八「佐伯 愛聖」
『は、はい!』
愛聖さんの楽屋の処理をして八乙女とここへ来ると、心配していたような重苦しい気配はなく、寧ろ些か楽しそうな話し声が聞こえて少しの間ドアの前で様子を見てた。
深刻な雰囲気であればすぐにでも、と思っていたけど、八乙女自体がドアの前で足を止めているから僕が先に入る訳にも行かなかっただけでもあるけど。
それにしても、フルネームで名前を呼ばれて、自然と背筋が伸びてしまう愛聖さんを見てクスクスと笑ってしまう。
余程、八乙女の所にいた時に厳しい教育をされてたんだね~。
その証拠に、瞬きを忘れてしまうほど固まってしまって。
八「お前は・・・いつまで経っても、子供だな」
『え?!あ、すみません・・・』
ポケットから出したハンカチで、八乙女が愛聖さんの口元を押さえた。
いつものように小言のひとつでも言うのかと思ったら、まさかこの八乙女がこんな事をして見せるだなんて思わなかったよ。
八「佐伯、お前の部屋は小鳥遊と片付けて来た。後の事は小鳥遊から聞・・・なにを笑っている小鳥遊」
「あぁ、ゴメンゴメン。キミにもそんな優しい一面がまだあるんだなって」
こっそり笑っているつもりだったのに、さすが八乙女・・・背中にも目があるんだな。
八「くだらん事を言ってる暇があるなら、早くこの2人を連れて帰れ」
途端に不機嫌モードを前面に出して来る八乙女に小さく肩を竦めて、愛聖さんも三月くんにそれを促す。
『お邪魔しました。八乙女社長、いつもいろいろと手を貸して頂いてありがとうございます。楽も、ありがとう』
楽「いや、こっちこそいろいろ馳走になったしな。和泉兄、美味かったぜ」
三「また機会があったら、だな」
子供同士では、こんなにも近くにいられるというのに。
表に出来ないだけで、父娘となると余所余所しく接しなければならないと思うと、少しだけ八乙女が不憫にも思えてしまう。
もし、紡と自分が同じ立場だとしたら。
それは想像以上に辛く、そして寂しい事だろう。
だけど八乙女は、そんな事を少しも顔には出さずにずっと過ごして来たんだ。
いや、極たまに顔には出てるかな?
なんて言ったら怒りだしそうだけど。