第16章 動き出した真相
小「三月くん、頼みがあるんだけどいいかな?このシーンを撮り終えたら愛聖さんはオールアップなんだ。そしたら僕は彼女と一緒に監督の所へ挨拶に行くんだけど、その後、僕はまだ少し監督と話す事があるから楽屋まで一緒に戻って欲しいんだけど、どう?」
本当はまだ、ちゃんと向き合って話すのに気持ちが固まってねぇけど。
でも、いつまでも引き伸ばしたって仕方ない。
社長がどれ位で戻るのかは分からないけど、その時に少しでも愛聖とちゃんと話して、謝りたい。
「分かりました」
小「ありがとう、助かるよ。じゃ、これは楽屋の鍵ね」
差し出された鍵を受け取り、しっかりと握れば、同じタイミングでカットがかかった。
「お疲れ様でしたー!・・・佐伯 愛聖さん、八乙女楽さん、オールアップです!」
助監督の声にその場にいるスタッフ全員が2人に拍手を送り、セットの前で監督から大きな花束を渡され握手を交わしている様子が見える。
あちこち血だらけで笑顔を見せる2人はちょっと怖い気もするけど、でも、全ての撮影が終わった2人の姿は自分がやり遂げた事に晴々としていて、オレには誇らしくも見えた。
あいつらにしか出来なかった演技。
愛聖にしか、出来なかった表現方法。
どれを取っても、オレにはきっと同じ表現は出来ないと思う。
だからこそ、女優業って世界で頑張る愛聖に自分を重ねて応援するファンやスタッフがいるんだな。
・・・だからあの時、愛聖はあんな風に言ったのか。
ー ファンの皆さんは自分にないものを求めて、それを持っている人に憧れて応援してくれるだけじゃありません。自分もそうだ、私と同じだと共感して、一生懸命頑張る人を応援しながら自分も頑張ろうって思う人もいるんです。そして、ここにいる皆さんが・・・その誰かの等身大でもあるんです ー
あぁ・・・そういう事なんだ。
スタッフたちからの拍手に包まれる愛聖を見て、オレにはなかった努力でその場所に立っているんだと、光の中にいるんだと改めて思った。
社長は、愛聖の中にまだ小さな輝きの欠片があるって言って、自分の元へと受け入れた。
その意味が、やっと分かった気がする。
オレのはまだ、輝こうとしてるだろうか・・・