第16章 動き出した真相
❁❁❁ 三月side ❁❁❁
「3・・・2・・・・・・」
カチンコが鳴らされ、カメラが回り出す。
その向こう側で繰り広げられる光景を、オレはただ、黙って見てる。
このドラマはオレもずっと追い掛けて見てるけど、まさかこんな展開になってるとは思わなかった。
頻繁に通い続けた客が、名は明かせない実の父親だったなんて・・・
産まれてから顔も名前も知らずに育った女が、借金の為に遊廓に売られ、やっと・・・やっと父親の事を知った矢先に・・・通っても通っても心通じる事が出来なかった男に斬られるとか。
しかもそいつは、八乙女楽だぜ?
って言っても役所はなんかデッカイ店の次男坊的なやつで、跡を継ぐ訳じゃないから遊び歩いて・・・みたいな感じだったけど。
まさかの展開だよな・・・視聴者はきっと、こうなるとは予想もしてないぞ。
オレもその視聴者のひとりだけど。
今も昔も言い方によっては悲恋っつうか、なんというか・・・それもまぁ、想いのカタチなんだろうけど。
それにしても、撮影で使う血糊ってハンパねぇな。
ニセモノだって分かってても、こう、思わず首筋がゾクッとするっつうか。
それなのに、話の流れから目が離せずにいるオレもいる。
何度も斬られ、刺され、それでもやっと自分を娘だと認めてくれた男を逃がそうと、力なく這いながら・・・自分の手を、男へと伸ばす。
『・・・わっちは、ここで育ち、骨を・・・埋めるのも・・・ここ、しか・・・ありんせん・・・早う・・・お逃げ、下さんし・・・・・・とと・・・さ・・・・・・ま・・・』
涙を浮かべながら、ふんわりと微笑みを浮かべて・・・事切れた。
そんな姿の愛聖の手を握り、八乙女楽が演じる男も自らの命を絶った。
その光景に静かに涙を流しながら、父親役の千葉さんがセリフを言ってるけど・・・ここまでのストーリだと、愛聖は壮五の役と両思いだったんじゃなかったか?
ってことは、八乙女楽が起こした無理心中って感じになるのか?
壮五の役の方も、愛聖が無理やり自分の体を触らせようとしてから全然出て来なくなったけど、そっちはそっちでどういう流れになるのか・・・ここから先もまだ見所が満載なんだな・・・
まだカットがかからないカメラの向こう側を見ていると、社長がオレの肩をそっと叩く。