第16章 動き出した真相
どうしてそう見えたのかは分からないけど、初めて見る表情から目を逸らすことは出来なかった。
誰かを思い出しているんだろうか?
だとしたら、それは・・・楽のお母さん?
もしかして、楽のお母さんとは・・・別の人・・・?
でもそれは私には聞けないし、誰にだって聞かれたくない交友関係のひとつやふたつ位あるだろうし。
私もいま・・・そうだから。
過去の、いまのRe:valeになる前の事は誰に聞かれても詳しくは話せない立場だし。
八「愛聖・・・時間は有限だ」
『あ、はい。じゃあ、よろしくお願いします』
八乙女社長が開いた台本に目を落とすのを確認して、私は小さく深呼吸をしてから話していたシーンを頭に浮かべる。
このシーンでは郭言葉ではなく、ひとつひとつの言葉を手繰り寄せながら、千葉さん扮する主さんに・・・だったよね。
『やはり・・・あなたが私の父、だったのですね・・・』
最初のセリフを口にすれば、トサッと音を立てて八乙女社長が台本を取り落とした。
八「っ・・・!」
あれ・・・?千葉さんの部分って、そこまで動揺するような流れだったかな・・・
ってより、雰囲気まで合わせてくれるとか八乙女社長ってやっぱり凄い人なんだ・・・
チラリと八乙女社長を見れば、取り落とした台本はそのままに、真っ直ぐに私を見続けている。
何も言わないでいるって事は、続けろって事なんだよね、きっと。
『思えば前より・・・幾つか思う所はありました。私をずっとお側に置きながらも、その手は肌を辿ることもなく、ただずっと・・・・・・って、八乙女社長?』
台本の流れ通りであれば、ここで千葉さんがセリフを被せて会話に入ってくるはずなのにと顔を上げれば、八乙女社長はさっきと同じ姿勢のまま瞬きを忘れてしまったかのように考え込んでいた。
『あの、いまどこかおかしな所がありましたか?それなら言って頂けたら、もう一度頭からやり直します・・・けど』
おずおずと数歩進んで見れば、そこで漸く八乙女社長が苦い顔を見せる。
八「・・・くだらんな。これしきの事で揺らぐとは・・・まだまだと言う所か・・・」
言っている意味が分からず黙っていると、八乙女社長はこっちの事だからいちいち気に止めるなと、続けろ、といつもの厳しい顔を私に向けた。