第16章 動き出した真相
『でも、思いがけない人が父親だったと分かった時の衝撃とか、動揺や、心が揺さぶられる感じは掴めた気がします。身分違いの恋愛だったとか、そういう時代背景を考えたら、母親が父親はいないと伝えた事も、ある意味では仕方がなかったのかも知れませんね』
そう伝えると、八乙女社長はほんの少しだけ瞳を揺らしながら私を見る。
八「お前は・・・いや、お前の母親もそう思っていたのか?」
『私の両親は身分違いだとか、そういうのはなかったと思いますよ?だって母さんは普通の家庭で育ったって言ってましたし、父さんもごくごく普通の会社員だったって聞いてます。父さんは私が幼い頃に亡くなってしまったので、どういう人だったのかはよく分かりませんけど。ただ・・・』
八「ただ?」
『母さんは雨の日に父さんと出逢ったから、雨の日は嫌いじゃないって話してました。雨降りで外に出られない代わりに、よく父さんの話をしてくれました』
普通なら雨が降ればどこにも行けないし、洗濯物が乾かなくてとか思うだろうに、母さんは雨の日は暇さえあれば空を見て微笑んでたんだっけ。
『自分にも周りにもとても厳しくしていて、周りの人に勘違いされる部分もあったけど、本当はとても優しくて愛情深い人だったって。周りに厳し過ぎて損してる所もあったけど、母さんはそれでも、ずっと好きだったって幸せそうに笑いながら話してくれました』
そんな母さんからの話で、母さんがどれだけ父さんの事を好きだったのか、大事に想っていたのかが今でも分かる。
私が学校の友達に弟や妹が出来たことを羨ましがっても、大切な人の子供は私だけでいいんだって言って。
それから仏壇を振り返って、あの人も・・・分かってくれてたから、と。
『いま思うと、私の父さんって感情表現が不器用だったんだなって思います。厳し過ぎて周りに勘違いされるだとか、嫌じゃなかったのかな?って。それでも母さんがずっと好きだったって言うなら、それは母さんの愛、なのかな?とか。いなくなってしまってもそう想われ続けた父さんは、幸せですよね』
八「あぁ・・・そうだな・・・」
珍しい程に小さく呟く八乙女社長を見て、私はそれ以上なにも話せなかった。
だって八乙女社長が・・・どことなく、切ない顔をしているように見えたから。