第16章 動き出した真相
『八乙女社長は、このドラマをご覧になってますか?』
八「我社に所属しているヤツが出ているからチェックはしている。それがどうかしたか?」
八乙女社長ってば、我社の・・・とか、素直に楽が出てるから見てるとか、言ってもいいと思うのに。
・・・なんて思ったことを言ったら、きっと不機嫌さを全面に出して来るんだろうけど。
『いえ・・・それだとネタバレになっちゃうかな?っつて思ったので』
私がそう言うと、八乙女社長は構わず話せと言って足を組み替えた。
『前回までの撮影で、脚本家が仕掛けた伏線の回収はしてるんです。だけど、どうしても遊女の心情が拾い切れないと言うか・・・死んだと聞かされていた父親の存在を知ってしまって、とか。難しいですよね、お芝居って』
何を言っているんだ!と怒られるかなと思いつつも、いつになく自嘲気味に言えば八乙女社長は静かに瞼を閉じてから、ゆっくりと開く。
八「愛聖、お前はそれを自分に当てはめた事はあるか?」
『私、ですか?』
普段は私を名前呼びにする事はあまりなかった八乙女社長に驚きながらも、自分の事に重ねた事はなかったと考える。
『特に・・・なかったです。確かに父さんは私が幼い頃に亡くなってしまったけれど、本当は生きているだなんて母さんも言ってなかったし・・・』
それに、父さんの記憶なんて朧気で、それは私が幼かったせいもあるのか顔も思い出せないほど記憶の片隅に行ってしまった。
生前の父さんと言えば、もう、写真でしか分からない。
八「もし、お前の本当の父親が他にいると知ったら・・・お前はどう思う」
『本当の、父親?』
八「そうだ。お前の目の前にいる人間がそうだと言ったら」
私の目の前にいる人間・・・それって、つまり・・・
「八乙女社長が・・・と、いう事ですか・・・?」
ドクンと大きく胸の音が響く。
八乙女社長が私の・・・?
じゃあ、父さんだと思ってたのは・・・誰・・・?
『そ、れは・・・』
あまりに衝撃的な事に言葉が上手く出て来ない私を見て、八乙女社長が小さく息を吐く。
八「なにをそんなに動揺している。私は例え話のひとつとして言ったまでだが?」
『あ・・・そう、ですよね・・・例え話、でしたよね・・・』
ニヒルな笑みを浮かべる八乙女社長に乾いた笑いを返しながら、僅かに呼吸を整えた。