第16章 動き出した真相
小「じゃ、愛聖さん、ちょっと出て来るね?僕がここを離れてる間、八乙女が一緒にいてくれるから」
『はい、行ってらっしゃ・・・八乙女社長がですか?!』
予想もしていなかった事に思わず声を大きくしてしまう。
小「大丈夫だと思うけど、念の為に用心して置かないと。それに何かあったとしても八乙女なら僕よりきっと上手く対処してくれるから」
『そうは言っても、八乙女社長もお忙しいのに・・・』
八「10分だ。それ以上は知らん」
さっきと変わらず素っ気なく言う八乙女社長に、じゃ急いで行ってくるからと言って社長は楽屋を出て行った。
って言うより、それくらいの時間だったら私ひとりでも大丈夫なんだけどなぁ。
社長がいなくなって静かになってしまった空間に、緊張して背筋が伸びる。
何か話さなければと思っても、なかなか言葉が見つからない。
そう言えば私がデビューしたばかりの時も、八乙女社長とこうやって楽屋で待機してたのに。
その時ってどうだったっけ?なんて考えれば、時間をムダにするなと言っては台本合わせをしていた事を思い出す。
『八乙女社長、もしお許し頂けるのであれば私のセリフ合わせの相手役をして頂けませんか?・・・なんて、言ってみたりして』
私がそう言った後に何かを考えるように目を閉じてため息を吐く八乙女社長に、そんな時間はない!とか言われちゃうんだろうなぁって思ってたのに。
八「台本を出せ」
『いいんですか?』
八「小鳥遊が・・・戻るまでだ」
『ありがとうございます!』
手元にあった台本を開き、これから撮るのはこのシーンだからと書き込まれた文字を指で辿って、ふとその指を止める。
そうだ・・・今日はこのシーンなんだよね。
どういう表現をしようかとか、監督に相談しながらの方がいいかもって・・・考えてた部分でもあり。
まるで電池が切れたように動かなくなった私を八乙女社長が怪訝そうに見る。
八「時間は限られている」
『分かってます。でも、どう表現したらいいか分からないシーンでもあったので、ちょっと考えてたんです』
そのシーンは遊女の元へ通い続けるも、指一本とて触れることない初老の男性を、遂に遊女である・・・つまり私が、あるきっかけを元に本当の父親だと確信してしまうというという物で。