第16章 動き出した真相
半ば強引に座らせると、社長はニコニコとしながら本当にお茶の用意をして八乙女社長の前に置いた。
『あの、社長?』
小「ん?」
八「なんだ」
・・・あぁ、そうだった。
いつかの様に2人同時に返事をするのを見て、2人一緒の時は名前もつけないといけないんだったと思い出し、小さな咳払いを誤魔化しては、また正面に座る八乙女社長を見る。
『八乙女社長は、もしかして楽を探してたんじゃないですか?それなら楽はいま、撮影中だと思いますよ?』
八「知っている。ここへは、通り掛かっただけだ」
通り掛かっただけって言われても、私の楽屋はスタジオから少し歩いた・・・奥の方、なんだけどな。
社長が以前テレビ局での事を考えて、誰もが通る通路沿いにあるよりは関係者以外が足を踏み入れないここの方がいいからと考えて、スタッフさんに確実に私に用事がある人しか足を向けない場所にしてくれたんだけど・・・?
それに、楽に割り当てられている部屋はこの部屋とは逆方向で。
でも楽が撮影中ってのを知ってるって事は、楽への用事は終わってて、ホントに通り掛かっただけかもだし。
まぁ、いっか?
自分の中で話を完結させてお茶にほんの少しだけ口を付けようとしたところで、スタッフが社長を呼びに来る。
小「僕に来客?分かった、すぐ行くよ」
社長に来客って、わざわざ撮影所に?
話している内容が聞こえてしまい小首を傾げると八乙女社長が僅かに眉を顰めた。
八「小鳥遊はマネージャー業が本職ではない。アレでも一応、芸能事務所の社長だ」
『え?あ、はい。そうですね・・・』
そのひと言だけで八乙女社長が、私が仕事の時はほぼ同行している社長に直接用事がある人なら、例え撮影所にでも出向いてくるだろうと言おうとしている事は理解出来た。
そうだよね・・・本当なら事務所の社長室で仕事をしているはずなのに、私の事を考えて現場についてきてくれてるんだから。
どうしてもって言う時は、紡さんか、あとはあとは現場経験がある万理以外の職員が、社長の代わりをしてくれるけど。
そろそろ、そういうのもちゃんと考えなきゃダメだよね・・・私も。
小「八乙女、ひとつ頼みがあるんだけど」
八「10分だ。それ以上は知らん」
まだ何も言っていない社長に、八乙女社長が眉ひとつ動かさずに素っ気なく返すも、社長はなぜか嬉しそうに頷いた。