第16章 動き出した真相
信号待ちで車を停めた時、一織くんや環くんと同じ学校の制服を来た学生をずっと目で追ってた。
洗濯物のたたみ方も壮五くんと同じだし、スーパーで大和くんがよく飲む銘柄のビールを眺めてたし。
そこまで念入りに?!って思うほど掃除機掛けてるし。
まじかるここなのウエハース菓子がバッグから出て来るし。
極めつけはさっきの夕飯の時、最初のひと口を食べてから、俺を見て。
『万理、前と味付け変わった?』
ってね。
俺は前から作り方は変わってないし、隠し味や材料も特に変えてもいない。
なのに、味付け変わった?だなんて、そんなのもう・・・答えはひとつしかないだろう?
愛聖、お前の日常生活の中にみんなとの時間が欠かせなくなってるんだよ。
「時間が経てば経つほど難しい事もあるから。じゃ、あまり夜更かしするなよ?・・・おやすみ」
それだけ言って立ち上がり、アイロンのスイッチを切ってベッドルームへと足を向けると、背後からポスッと小さな衝撃を受けて立ち止まる。
『万理・・・ホントはね、ちゃんと分かってる。私が意地張ってるってのも自覚してる。だけど、だけどね・・・なんて謝ったらいいのか、またあの場所に受け入れて貰えるのか、もし・・・ダメだったらどうしようって考えたら、行き場がなくなっちゃうんじゃないかって、そればっかり考えてて・・・』
キュッとシャツを掴む感触に頬を緩ませながら振り返り、俯いたままでいる愛聖をそっと抱き締める。
「ダメだった時は、その時にまた考えればいいんだ・・・でも大丈夫。愛聖の居場所は、ちゃんとあそこにあるから」
どんな役にも溶け込み、そこへ行けば本当にいると錯覚さえさせてしまう女優が、こんな些細な事で肩を震わせているなんて・・・誰が知ってるだろうか。
けど、なんの役にも嵌らない、そんな等身大の愛聖を知っているのは今ここには俺だけ。
「まずは愛聖が、1歩踏み出さないとね?」
子供の頃と同じように頭をぽんっとして、笑って見せる。
いつかこの役目を、他の誰かに変わってしまう日が来るんだろかと少し寂しい気持ちになりながら・・・名残惜しく、また愛聖を抱き締めた。