第16章 動き出した真相
『さてと。社長が戻るまでに終わらせないとなぁ・・・って事で、頑張ろっと』
万「だね。でも、その前に・・・よいしょ、っと」
私の隣にイスを引き寄せ腰掛けてデスクに頬杖をつく万理に何となく体を引きながらキーボードに手を乗せる。
『あのぅ、そこの有能事務員の大神万理さん?ちょっとばかり、邪魔なんですけど?』
万「うん、知ってる」
・・・。
それでもカタカタとキーボードを打ち出す私に、万理は更に距離を詰めては、ニコニコしながらジーッと私の顔を見続ける。
・・・。
なんか、なんだろ、新手の嫌がらせ?
気にしないようにしようとしても一向に離れて行く感じもしない万理に、ついには降参して手を止めた。
『あのねぇ、万理。なんか言いたい事があるんだったら言って?そんなに距離を詰めてまで見つめられたら作業が進まないでしょ!』
万「いやいやいや?なんか話したい事があるのは愛聖なんじゃないかな?って、思うんだけど?」
う・・・。
万「さっき、ずーっと俺の顔見てたからね。ま、たいたい愛聖が何を言いたいのか分かるけど。愛聖が打ち込みしてるのは経理担当の人のデータだし、今やってたのは勤怠管理だろ?だから、愛聖はきっと、俺がいつも遅くまでいるのに退勤は定時きっかりだし、なんでだろう?とかじゃない?」
『うわ・・・ほぼ正解だよ』
万「ほぼ?じゃあ、他には?」
興味津々に耳を傾け出す万理に抵抗してもムダだと分かってる私は、さっき考えていた事を素直に話してみる。
『・・・だから、万理の家はそれなりに家賃高そうなのにって思って、もしかして万理って実はお金持ちの家の人だったりして?なんて』
そんなまさかだよね~、なんて笑えば、万理も一緒に笑う。
万「俺の両親はごくごく普通の人だよ。母親は専業主婦で、父親は会社員。ちなみに俺の住んでる家は訳あり物件だから凄くリーズナブルなんだよ。しかも相場の半分以下!な、凄いだろ?」
『へぇ、そうなんだ?あんなに広々としてるのにリーズナブルだなんて凄いね。そっか、訳あり物件だったからなん・・・』
え・・・訳あり物件?
訳ありって、まさか、そういう訳ありってこと?!
万理しか住んでないのに、ひっそりとどなたかが同居してる風な、アレ?!
それはもちろん、私がいる時もご一緒してたって事?!