第16章 動き出した真相
ガタガタと騒がしく音を立てながらカップを並べていると、視界の片隅に現れた人影に気付く。
・・・万理。
万「俺も手伝うよ」
『別にコーヒーくらい私でも入れられるし』
せっかく手伝いに来てくれた万理に素っ気なく言い返して、コーヒーメーカーに水を入れてスイッチを押した。
『早く戻って作業の続きすれば?有能事務員なんでしょ?』
顔も見ないで言えば、小さく息をついて万理は歩み寄って来る。
万「あのさ、なんか機嫌悪い?俺がなんかした感じ?」
・・・してたよ、紡さんに。
けど、そんなの言えるはずもなく、口から出る言葉は素っ気ないものばかりで。
『・・・別に』
万「別に、って。な~んか怪しいんだけどなぁ・・・で、ホントの所、どう?」
ひょいっと屈んで顔を覗かれ、思わず体を引いた。
『なんでもない。別に万理が誰にでも優しいのとか分かってるし・・・だから、別に・・・平気だし』
そうじゃん・・・万理は昔からみんなに優しくて。
だから万理がバイトしてたパン屋さんのおばちゃんやお姉さんたちからも人気で。
万理と商店街に買い物に行けば、いっつもオマケして貰ってたし!
あれ、なんかモヤモヤ通り越して妙に腹立ってきた。
『とにかく何でもないか・・・なんで笑ってんの?』
漂い出したコーヒーの香りに顔を上げれば、すぐ横で万理がクスクスと笑っていた。
万「別に?愛聖の不機嫌の理由が何となく分かっちゃったからさ」
いま・・・なんて?
呆気に取られてポカンとしていると、万理は笑いを押さえることもせずに落ちきったコーヒーをカップへと注いでいく。
万「そうかそうか、そんなにヤキモチ焼くほど愛聖は俺が大好きだったとはね」
『・・・はぁっ?!ち、違うし!なにその自意識過剰!』
万「はいはい。っと・・・こら、危ないだろ」
楽しげに笑い続ける万理をツンと押してみれば、万理は自分以外のカップにミルクと砂糖を入れていく。
『万理はブラックのままでいいの?』
何気なく聞けば、万理はカップをトレーに乗せながら、また笑う。
万「甘味は別口で貰ったからね。ほら、コーヒー冷めないうちに・・・行こうか」
『なにそれ・・・っていうか笑うのやめて』
未だクスクスと笑い続ける万理に、なんか凄く負けた気がして、前を歩く背中に軽い制裁をお見舞した。