第16章 動き出した真相
父さんが亡くなってから私をひとりで育てる為に仕事を掛け持ちしてた母さんの軸となる仕事は、そういった打ち込み業務の物だったから。
他にもパートで仕事してたけど、主たる収入源はその仕事だった。
万「愛聖にそんな特技があったとか知らなかったよ。俺と知りあった時には、そんな話しなかったし」
『だって、女の子がパソコンのタイピングに夢中になってるだとか恥ずかしかったし。だから言わなかったの。ちなみに千も百ちゃんも知らないし、八乙女社長には・・・言えなかったから』
小「どうして?」
『そんな事をしている時間があるなら他にやる事があるだろう!って言われそうで・・・だから、八乙女社長が知ってると言ったら、ピアノを少し弾ける位で』
それもまた、どこかの教室に通うとかではなくて、母さんから教えて貰った位だから弾けるとかいうレベルでもないかもだけど。
そもそも、きっちり楽譜読めるわけじゃないし。
・・・だから千にも、お小言攻撃されるし。
小「ピアノもお母さんから?」
『あ、はい・・・だからホントに少しだけです。八乙女社長の所にいた時にも、オフでやる事がない日は事務所のレッスン室にあるピアノを弾いたりしてました。あ、社長はご存知ですか?八乙女社長もピアノを弾けるんですよ?』
小「え?!八乙女が?・・・それは僕も知らなかったよ・・・へぇ・・・あの八乙女がねぇ・・・」
『私も最初は驚きました。レッスン室で母さんが好きだった曲を何気なく弾いていたら人の気配を感じて。そしたらそこに、八乙女社長がいて。その曲は誰に教わったんだ?って聞かれて。怒られるのかと思いながら、母さんに教えて貰ったって答えたら・・・その・・・』
あの時の八乙女社長は、不思議な位に穏やかな顔をしていて。
小「もしかして・・・怒られた?」
『いえ、ただひと言、そうか・・・って。もしかしてその曲が好きなのかな?って勝手に思ったりして、八乙女社長はいつも忙しそうでしたから、私の拙いピアノで少しでも気が紛れるならと練習したりして。そしたらある日、八乙女社長がいつも同じ所を弾き間違える私に手本を見せるからもう間違えるなって言って』
それは、母さんと同じように優しい音色だった。
きっともう、そんな機会はないだろうけど。
『まぁ、それよりも!今はやるべき事をやっつけちゃいましょう』