第16章 動き出した真相
八「黙れ!・・・結は私と共に歩いていたら、今とは違う結果になっていた!悲しませるような事だってなかった筈だ!」
「それも違うよ、八乙女。確かに結は病に倒れてしまった。でも、最期まで・・・笑っていたよ。それに、キミの言うように僕が結を不幸にしてしまったと言うのなら・・・八乙女、キミにも心当たりがあるんじゃないのかな?」
八「・・・何が言いたい」
「それは僕が敢えて言わなくても、ちゃんと分かってるはずだよ・・・その本人も、結と同じように今はここにはいないけど、きっと最期までキミを大切に想っていたんじゃないかな・・・そうじゃなければ、大事な宝物であろう彼女を・・・キミに託したりしないだろう」
感情的になっていた八乙女が、僕の言葉でその勢いを弱めていく。
「あの子だって、とても一生懸命でいい子じゃないか。壁にぶつかる度に・・・八乙女から教わった事を思い出しては自分でその壁を乗り越えようとしてる。それもまた、八乙女・・・キミが立派に育てたからじゃないのか?」
愛聖さんは楽屋でもよく、迷ったりする度に八乙女のマネをしてでも自分を奮い立たせているんだよ。
しっかりしろ!ちゃんと顔を上げて前を向け佐伯 愛聖!・・・ってね。
それは他の誰でもない、八乙女からの教えだ。
「だから無闇に敵を増やして、息子さんも、そしてあの子も・・・困らせる事がないようにしなければならないよ。キミに話しておきたかった事はそれだけだ。それじゃあ、僕は帰るよ。貴重な時間をありがとう」
八「待て小鳥遊!」
踵を返して歩き出した僕を八乙女が呼び止めるも、その声だけを聞きながら部屋から出る。
「っと・・・失礼」
楽「あ、いえ・・・」
ドアを開けた所で八乙女の息子と鉢合わせしまったけど、別段、言葉を交わすこともなくその場を立ち去った。
伝えるべき事は、ちゃんと伝えたからね・・・八乙女。
エレベーターをひとり待ちながら部屋を振り返り、僕は小さく息を吐いては、そっと目を閉じた。