第16章 動き出した真相
❁❁❁ 紡side ❁❁❁
小「それじゃ万理くん、僕はちょっと出掛けて来るから留守を頼むよ」
万「了解です。あ、社長?くれぐれも、お気をつけて」
会話だけを聞けば、まるで何もない平穏な感じに聞こえるんだけど。
事務所を見渡せば、散らかり放題になっている光景が広がっていて、事務所が荒らされたという現実を目の当たりにする。
大和さんに壮五さんからの電話の内容を聞かされた時は、まさかそんな・・・なんて思ったけど、皆さんを送りながら大神さんが私を迎えに来て事務所へ戻ってみれば、社長が向かい合って話をしていた人が今回も、そして前回も事務所を荒らした張本人だと万理さんに説明された。
それも、TRIGGERに楽曲を提供している音楽プロデューサーである事も同時に伝えられ、犯行自体は八乙女社長の指示ではなく、単独の物だとも説明されたけど・・・
とりあえず逃げられないようにと拘束された姿は、私たちが来る前に何があったのか、とても怯えているようにも見えて・・・なんだか少しだけ、気の毒な感じもしてしまった。
「この人・・・どうなるんでしょうか」
万「社長は警察に被害届けを出すつもりはないと言ってました。こんな話が広がってしまったら、お互いのタレントがダメージを受けるだろうからと。でも、このままにしておく訳にもいかないから、八乙女社長に直接話をしてくると出掛けて行きましたが・・・」
「八乙女社長に?」
万「はい・・・それに、前から少し思ってたんですが、小鳥遊社長と八乙女社長って、昔からあんな感じなんですかね?電話口でも、なんかこう変な空気だったし」
「私にはその辺の事はあまり分かりませんけど・・・愛聖さんはなにかご存知ですか?」
皆さんが寮に戻ってからも、ずっとこの場にいる愛聖さんにも話を振ってみる。
『そうですね・・・確かにとても仲が良いって感じではなさそうですけど。でも、社長が私の仕事に同行してくれている時に、八乙女社長が居合わせた時は特に啀み合う様子はなかったと思います。ちょっとした、掛け合いの様な物はありますけど』
そう言って愛聖さんは小さく息を吐いて、ゆっくりと瞬きをする。
『例えどんな仲だったとしても、八乙女社長はこの世界で育ててくれた私の・・・大切な人なんです。その事実は、何があっても変わりません』