第16章 動き出した真相
明るくなった事務所で目の前に現れたのは、きなこちゃんなんかではなくて。
『っ・・・誰?!』
「チッ・・・!」
目深に帽子を被り、マスクまでして顔を隠している誰かの姿。
途端に崩れそうになる足をなんとか保ち、少しずつ下がりながらどうしたらいいのかを考える。
ってより、じっくり考えてる場合じゃない!!
どうみたって相手は怪しげに顔を隠してるんだから、何より先に逃げなくちゃ!
私に向けて伸ばされる手を避けながら、いま歩いて来たばかりの廊下を駆け出す。
「っ?!ま、待て!」
慌てて後を追いかけて来る人影に、更に加速しようとした、その一瞬。
・・・っ!!
背後から腕を掴まれて引き倒されてしまう。
『・・・!!』
倒れた衝撃で伝わる痛みに顔を歪めて、それでも逃げなければと抵抗を見せれば、相手もそうさせまいと・・・また、手を伸ばす。
「っ・・・暴れるな!・・・お前は・・・佐伯・・・愛聖?!」
数度の揉み合いの末、窓から差し込む月明かりに相手の姿が照らされお互いに視線が合った瞬間、ドクンと大きく心臓が鳴って体が動かなくなる。
どうして、私の名前を・・・?
どうして・・・どうして・・・?!
徐々に息苦しくなる感覚と、薄暗い建物の中。
そして、冷りとした空気に・・・あの時の事がフラッシュバックして瞬く間に恐怖感が込み上げ、全身が震え出す。
『や・・・めて・・・離して・・・』
溢れ出す涙の向こうでは、押さえ込んだ相手が私だと分かって動揺を隠せない目がジッと私を見下ろし続けていて。
「お・・・大人しくしてれば、何もしない」
怖さのあまり声さえ出なくなった私にそう言って、その人はポケットから紐を取り出し私を拘束して、ズルズルと引き摺るように私をさっきの部屋へとおしこんだ。
「念の為、だからな・・・」
ビッとガムテープを切り出し、恐る恐るという感じで私の口を塞いだかと思えば、万理のデスクに置いてあったタオルで目隠しまで施す。
「データが見つかれば、自由にしてやるから」
トンッと私の体を押して床に横たわらせ、そこで人の気配が少し離れるのを感じた。
手足の自由を奪われながらも自分の身を案じて体を小さく折り畳んでは、この時間が一刻も早く終わることを祈りながら・・・僅かに聞こえる物音だけに、耳を傾けていた。