第16章 動き出した真相
あまり遅くなって心配を掛けないようにと、少しでも時間短縮の為に事務所までの道のりを走り、息が上がる頃にようやくその場所へと到着する。
こんな距離を走り続けただけで息が上がるとか、やっぱり運動不足なのかも?
とりあえず転んだりしなくて良かったと、何度目かの深呼吸をしながら事務所の鍵を出し、ドアへ差し込もうとノブを掴めば、どういう訳か鍵は掛かっていない。
『あれ?ドアが・・・でも紡さんの話だと、万理が社長と出掛けるのに戸締りはしたって聞いたけど・・・?』
1歩下がって事務所の様子を見ても部屋の明かりは消えていて誰かがいる様子もない。
万理、慌てて鍵を掛けたつもりが掛かってなかったとか?
それならそれで、いま車の鍵を返しに来て良かったのかも。
忙し過ぎると有能事務員でさえもこんなミスするんだな・・・なんて肩を竦めつつ、そっとドアを開けて事務所の中へと足を運ぶ。
誰もいない真っ暗な事務所の廊下は何となく不気味さを漂わせていて、こんな事ならやっぱり一織さんに一緒に来て貰えば良かった・・・なんて少し後悔する。
けど、これくらいで怖いだとか言ったら、一織さんにまたため息つかれそうだし・・・ここは手早く電気をつけて・・・え・・・?
万理たちのディスクがある部屋のドアを開けようと近寄れば、中から小さな物音を感じてドアを開けるのを躊躇する。
誰か・・・いるの?!
自分の心臓の音が早鐘のように鳴り出すのを感じながらも、ドアノブを握った手を離すことが出来ずに体が硬直する。
泥棒・・・だったらどうしよう・・・とにかく二階堂さんに連絡して急いで来て貰うとか?!
緊張で冷たくなりつつある手でスマホを取り出し、二階堂さんのアドレスを辿っていると、ガタンッと音がした後に聞き覚えのある鳴き声が耳に届く。
ー キュキューン! ー
今のって・・・もしかして、きなこちゃん?!
社長と万理は外出中って聞いたし、もしかして社長もきなこちゃんを野放しにしたまま出掛けちゃったとか?
だったら、不用意に怖くなることもなかったんじゃ?
はぁ、びっくり、した・・・
物音や気配の正体が分かり、なんだ・・・とホッとしながらドアを開ける。
『きなこちゃん?こんな所で遊んでたら社長に怒られちゃうよ?』
言いながら壁のスイッチに手を伸ばし、パチンと音をさせて電気をつければ・・・