第7章 勝てない相手
それに、リヴァイの迫力をものともしていない人物はもう一人いた。
「勝った方に優勝賞品を渡す」
まるで壁外調査の時に見せるような淡々とした表情で言い放つエルヴィンだ。
その後ろから、ひょこっとが顔を見せた。先ほどから姿が見えないと思っていたら、エルヴィンの大きな身体で隠れてしまっていたのだった。
「…チッ、と勝負なんかできるか。怪我させちまったらどうする。まぁ絶対にそんなヘマはしねぇが…万が一ということもあるからな」
青筋を立てて睨みつけるリヴァイに、エルヴィンは場の空気にそぐわない爽やかな笑みを浮かべてコソっと耳打ちした。
「いいか?わざと負けたりすれば今後一週間、衣類修繕室への出入りを禁止するぞ」
「なんだと?ふざけるな」
「ちなみにには別の条件を出している。だから彼女も本気で勝ちに来る。さぁどうする?やらなければやられるぞ。だがくれぐれも怪我はさせるなよ?」
「……」
もはや返す言葉も見つからず、リヴァイは無言のままエルヴィンの顔を睨み上げた。その形相は凄まじく、通常の兵士などではこれだけで気絶してしまいそうなほど恐ろしい。
だが、エルヴィンはどこ吹く風だ。
「さぁ、いよいよ最終戦です!あの…用意はいいですか?」
の華奢な手を壊さないように細心の注意を払いながらそっと握るリヴァイ。だが視線はエルヴィンへと向けられていて、その迫力に気圧された司会のアルミンは恐る恐る訊ねた。
「さっさと終わらせろ」
「は、はいっ!では…レディー、ファイッ!」
添えられていたアルミンの手が離れた。
「んっ!」
の手に力が込められ、可愛らしい声が漏れる。その様子から、精一杯の力を振り絞って頑張っているのが分かった。集中するためなのか目をギュッと閉じてプルプルと震えている姿に、リヴァイは思わず目を細める。
(…くそっ、健気に頑張りやがって)
今すぐにでも抱きしめてやりたい。力んだせいで少しピンク色に上気している頬に口づけたい。…だがそのためにはさっさと試合を終わらせなければ。