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【進撃の巨人】夫は人類最強の男

第1章  出会い


「ボタンぐらいなら数分で付けられますよ。そこに座っていただけますか」

 女性の指し示したイスに、リヴァイはおとなしく腰掛ける。向かい合って座った女性は、差し出されたリヴァイの腕を優しく取ると、手際よく作業に取りかかり始めた。そんな彼女を、リヴァイはまじまじとみつめた。
 すっと通った鼻筋に、長い睫毛に縁取られた大きなブルーの瞳、桜色の小さな唇、色白で陶器のようになめらかな肌、華奢で小柄な肢体。
 人形のように整った容姿に、思わず見とれてしまった。
正直なところ、兵士長という立場上、兵団内の設備については熟知している。当然ながら衣類修繕室の存在も知っていたが、自分とはほとんど関わりのない部署であったためいつの間にかその存在をすっかり忘れてしまっていた。

(ここにこんな美人がいたのか…)

「いつ頃からここで働いている?」
「はい、5年ほど前から」

(そんなに前から…)

 手は休めずに女性が答える。白く細い指先が、面白いほど滑らかに動き、作業を進めていく。

「そうか、そいつは失礼した」
「いえ、そんな。兵長さんはお忙しい方ですから」

 非礼をわびるリヴァイに、女性は笑顔で首を振った。

「ところで、なぜ俺のことを知っている?」
「なぜって、兵長さんほどの有名人はいらっしゃいませんよ。この国の人間なら、誰でも存じ上げております」

 確かにそうだ、とリヴァイは思った。自慢ではないが、自分は人類最強の男などと言われているらしくそれなりに有名人であるという自覚はある。

「名前は?」
「と申します。さ、終わりました。いかがでしょうか?」

 他愛もないことを話している間に、あっと言う間にボタンは付けられていた。
 以前よりも丈夫に、かつ美しく取り付けられているのを見てリヴァイは満足そうに頷いた。

「世話になったな」

 気むずかしそうだが端正な顔にわずかに笑みを浮かべると、リヴァイはさっさと部屋から出て行った。
 パタンと扉が閉じられる。リヴァイが部屋に居たのはほんの10分程度の事であった。

(なんだか、風のような人。でも、噂ほど怖い方ではないのね。あんな表情もできるんだもの)

 ふと、ボタンの取れた袖を差し出した時のすねた様な表情や、部屋から出て行く直前の唇の端をわずかにあげただけのニヒルな笑顔を思い出す。

(ちょっと…かわいい、かも)

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