第1章 出会い
コンコンと、一応ノックしてからリヴァイは入室した。
衣類修繕室は、調査兵団本部の一角にある。衣類に修理が必要な場合に、団員は自由に持ち込んで良い事になっている。
「邪魔するぞ」
修繕室は日当たりの良いこじんまりとした部屋で、部屋のそこかしこにミシンやら何やらの裁縫道具が置かれていたが、決して雑然とはしていない。どの道具もよく手入れされ、キレイに並べられている。
「こんにち…」
窓際に備え付けられた机に向かって作業をしていた小柄な女性が、入室者に気がついてぱっと振り向いた。
「あ、リヴァイ兵長さん」
そして、入室者が限りなく不機嫌な表情をしたリヴァイであることに気がつくと、若干、顔をこわばらせた。
「ど、どうかされたのですか?」
小柄ながらも人類最強と言われている男が眉間にシワを寄せて現れれば、誰でも驚くだろう。
一方のリヴァイも、わずかながら驚いていた。
衣類修繕という言葉の響きから、年配の女性が対応するものと勝手に思っていたが、思いがけず若く美しい女性が出てきたので、不覚ながら一瞬目を奪われたのだ。
しかし、おそらく自分の暗澹たる表情におびえたのであろう彼女の震える声を聞いて、はっと我にかえった。
「シャツのボタンが取れてしまった。すぐに付けて欲しいんだが。これじゃ、みっともなくて出歩けねえ」
兵士長ともあろう自分が、女性に鼻の下を伸ばした事がこの上なく恥ずかしく感じられて、照れも相まってついぶっきらぼうな口調になった。
リヴァイはボタンの取れた右袖を差し出し、ぷいと横を向く。
その態度口調を見て、修繕室の女性はリヴァイの不機嫌のもとはボタンが取れた事に起因しているのかと合点し、思わず笑みを浮かべてしまった。正確には、彼女の読みは外れているのだが…。
子どものようにすねた態度が何だかおかしくて可愛くて、ふっ、とこわばっていた身体から力が抜けていった。