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*スーツを着た狼*【R18】

第4章 近づく距離





(…全然眠れなかった)

野宮先輩にキスをされた翌朝…
当然眠れなかった私は、顔も体も最悪のコンディションだった。
先輩は何故あんな事をしたんだろう…

耳元で囁かれたあの言葉…
『ずっと触れたかった』
あれはどういう意味…?

そんな事がひと晩中頭の中をぐるぐる回っていたのだ。

(ハァ…憂鬱……)

今日だって先輩と仕事をしなくてはいけないのに、一体どんな顔をして会えばいいのか…


「わっ…、もうこんな時間…!」

時計を見れば遅刻寸前の時間。
私は急いでメイクをし、朝食も摂らず慌てて家を出た。





「…遅せぇ」

「…!」

駅に着いたところで私は驚愕した。
何故なら改札口には野宮先輩がいたからだ。


「せ、先輩……どうして…」

「…話は後だ。早くしねぇと電車が来る」

「きゃっ…」

私の手を取った先輩は、そのまま改札を抜け階段を駆け上がる。
ホームにはちょうど電車が到着したところで、私たちは何とかその電車に乗る事が出来た。


(はぁ…、苦しい……)

寝不足の体に全力疾走はつらい。
おかげで会社には遅刻せずに着きそうだけれど…

(というか近いんですけど…!)

ギリギリに乗った私と先輩は、閉まったドアに寄り掛かるようにして立っていた。
いつも通り混んでいる車内。
私と彼の体は完全にぴたりとくっついてしまっている。
昨日の事もあり、私は自分の顔が熱くなるのを感じた。


「顔赤いな……平気?」

そんな私に気付いたのか、気遣うように声を掛けてくる先輩。
あなたのせいなんですけど…!と言いたいのを堪え、「走ったせいです」とだけ答えた。


「お前がのんびり歩いてくるからだろ」

「ぅ…」

「今日は寝坊?いつもはこれより1本早い電車じゃなかったか?」

「…え……」

確かにその通りだが…どうして先輩がそんな事を知っているんだろう?
そもそも何故今日は先輩が駅に…


「昨日…お前、痴漢に遭っただろ?それで心配だったから…」

「……、」

「お前がいつも乗ってる電車なら俺もよく利用してるし…どうせなら一緒にと思って」

「先輩…」

(その為にわざわざ駅で待ってくれてたって事…?)

彼のその優しさに少しキュンとしてしまった。
そんな彼は今も、満員の車内で私が押し潰されないよう庇うように立ってくれている。



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