第12章 初めて見る恋人の表情
ぐったりした私をベッドに運んでくれた先輩は、「ちょっと待ってろ」と言って一度寝室を出ていった。
すぐに戻ってきた彼の手には水の入ったペットボトルが握られていて…
「ほら…ちゃんと水分補給しろよ」
「ありがとうございます…」
差し出されたペットボトルに手を伸ばす。
けれど力の入らない私はそれを取り落としてしまった。
「ぁっ…」
「おい…大丈夫か?」
「す、すみません…!」
キャップの空いていた口から水が零れシーツを濡らす。
慌ててペットボトルを拾おうとすれば、私より早く先輩がそれに手を伸ばした。
「ごめんなさい、シーツが…」
「いいよ、そんなもん…どうせ後で洗濯するし。それより…」
そう言い掛けた彼がペットボトルに口を付ける。
その様子をぼんやり見ていると不意に顔を引き寄せられた。
「んっ…!」
予告もなく塞がれた唇。
触れ合ったそこから冷たい水が流れ込んできて、私は自然とそれを飲み下した。
「…ちゃんと飲めた?」
「っ…」
ふっと笑ってそう囁いてくる彼に頬が熱くなる。
それを誤魔化すように手の甲で口元を拭えば、その手を取られもう一度唇を重ねられた。
「ふ…っ、ん…」
今度は水ではなく熱い舌が入ってくる。
一度引いた熱がまた燻り、嫌でも火照ってしまう私の体…
「なぁ…まだ出来るよな?」
「えっ…」
「俺まだ2回しかイってねぇし」
「っ…」
結局私たちはその後朝まで体を重ねた。
それから数日後…
「え…転勤?」
「そっ、びっくりだよね~」
梨乃から聞いた話だが、例の柏木課長は数ヶ月前から地方への転勤が決まっていたらしい。
彼はそれが気に入らず、部下である菊池くんに八つ当たりしていたという事。
そしてあの怪我はこれまた転勤が原因で奥さんとケンカになり、その末に負ったという事が後から分かった。
「まさか課長の奥さんが鬼嫁だったとは…」
「ははは…」
そうとも知らずに先輩を疑ってしまった自分が恥ずかしい。
その事についてはちゃんと彼に許してもらえたけれど…
「…笹木」
「…!」
「…今日も仕事終わったら俺んちな」
「……、」
あれ以来、彼とのHが今まで以上に濃厚なものとなってしまったのは言うまでもない…
*