第4章 近づく距離
「先輩…その体勢苦しくないですか…?私の事なら気にしなくても…」
野宮先輩の厚意は勿論有り難かったが、毎朝こんな状態の電車に乗っていればそれも慣れてくるというもの。
気を遣ってもらうのは何だか申し訳なくなってくる。
「余計な気ィ回してんじゃねーよ。俺はお前と違って頑丈だから平気だ」
「……、」
まぁ確かに…
それだけガタイが良ければ、ちょっとやそっとじゃびくともしなさそうだ。
周りの人より頭ひとつ分高い身長、スーツの上からでも分かる逞しい胸板…
改めて意識してみるとドキドキしてしまう。
(…って、何考えてるの私!)
妙な思考を振り払い、チラリと先輩を見上げる。
彼は涼しげな顔で窓の外の景色を眺めていた。
その端正な顔に女子社員が騒ぐのも解るような気がする。
(そう言えば…)
ここまで先輩とは普通に会話していたが、ふと昨日の事を思い出してしまった。
私にキスをして…彼は本当にどういうつもりなのだろう?
彼の様子に異変は見られない。
と言っても顔に感情を出さない彼が何を考えているかなんて、私には分からないのだけれど…
「それじゃ…後でまたミーティングルームな」
「……はい」
会社に着き、一旦先輩と別れる。
その様子を見ていたらしい梨乃が、鬼のような形相で駆け寄ってきた。
「ちょっと葵!一体どういう事!?」
「梨乃…おはよう」
「おはようじゃない!なんで野宮先輩と一緒に出社してんの!?…ハッ!まさかたった一日で仲良くなって、昨日の夜はお楽しみだったとか!?」
「そんな訳ないでしょ!」
どうやったらそんな妄想が出来るのよ…
「先輩とはたまたま電車が一緒だっただけ」
…正確には待ち伏せ(というと言葉は悪いが)されていたのだが、本当の事を言ったら余計にややこしくなりそうだ。
「…それホント?」
「ホントだってば」
「でも私…他の女子社員に先輩を取られるくらいなら、相手は葵がいいなぁ」
「…は?」
「まぁ競争率は高そうだけど頑張ってよね!必要なら私が先輩に関する噂とか色々探ってあげるし!」
「いや、ちょっと梨乃…?」
この子は何を言ってるの?
まるで私が先輩に恋をしていて、それを彼女が応援するという謎の図式になってない?
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