第3章 先輩の意外な一面
「先輩…何から何まですみません…。送って下さってありがとうございます」
結局自宅アパートまで私を送ってくれた野宮先輩。
彼の家はもうひと駅先だという事だったが、わざわざ一旦電車を降り私に付き合ってくれたのだ。
「別に…俺が勝手にした事だから」
「……、」
それでも彼の厚意は嬉しかった。
そもそも先輩が痴漢を捕まえてくれなかったら、私はあの後どうなっていたか…
「あ、あの…今度ちゃんとお礼をさせて下さい」
「…だからいいって」
「だ、だめです!今日はお昼もご馳走になっちゃいましたし、何かお礼をしないと私の気が済みませんから!」
「………」
そこまで言うと、先輩は無言でこちらを見下ろしてくる。
そして…
「礼って…何してくれんの?」
「…え?」
「俺が望む事…何でもしてくれる訳?」
「……、」
正直具体的な事は何も考えていなかった。
お返しにお弁当…と言っても、彼の料理の腕前を知った後ではそんな勇気到底ないし…
かと言って何かプレゼント…したくても、彼の事を何も知らない私は何をあげたらいいか分からない。
一瞬の間に色々な事を考えてみたが、彼の質問に上手く答える事は出来なかった。
「え、えーと…私に出来る事なら何でも……」
「それ…本気?」
「……、はい…」
「だったら今貰うけど……いい?」
「…?」
その言葉の意味が解らず首を傾げていると、彼の顔がすぐ間近に迫ってきた。
「え…」と呟いた時には唇を塞がれていて…
「っ…」
驚いて後退りするも、彼に腰を引き寄せられる。
その間にも唇を割って入ってきた彼の舌が私のものに絡んできた。
(な、なに……どうなってるの…!?)
思考が上手くついていかない。
先輩にキスをされているという事だけは理解出来たが、何故そんな事をされているのか全く解らなかった。
「はぁっ…」
散々私の口内を荒らした彼がようやく唇を離す。
そして濡れたその唇は私の耳元に寄せられて…
「…ずっと触れたかった」
「っ…」
「何でもするなんて…俺以外の男には絶対言うな」
「……、」
そう囁くと、彼は私から離れこちらに背を向けて立ち去っていく。
(…なん、だったの……?)
取り残された私は、ただその場に立ち竦む事しか出来なかった…
*