第9章 社内での密事
「えー!葵ってばいつの間に先輩と…!」
「しーっ!声が大きい!」
野宮先輩と恋人同士になってから早1週間…
今日は久しぶりに梨乃と社員食堂で昼食を摂っていた。
妙なところで勘の鋭い彼女に先輩との関係を聞かれ、私は正直に打ち明けたのだけれど…
「…あんた、先輩になんか全然興味持ってなかったくせに」
「ぅ…」
「なに?やっぱり一緒に仕事して恋が芽生えちゃった的な?」
「……、」
…否定は出来ない。
もし今回一緒に仕事をしていなければ、先輩は私の中でずっと"恐い人"のままだっただろうし、彼の想いを知る事もなかっただろう。
「なーんか最近、葵ってばやけに艶っぽいし、彼氏でも出来たのかなーって思ってたんだけど…まさかその相手が野宮先輩だったとはねぇ…」
「…絶対誰にも言わないでよ?」
「解ってるって。先輩に彼女が出来たなんて噂が広まったら、ファンの子が大騒ぎするだろうしね」
「………」
想像するだけでも恐ろしい。
私は野宮先輩自身にも、付き合っている事は秘密にしてほしいとお願いしていた。
なので当然の事ながら、会社では今まで通り先輩後輩の関係を続けている。
「…で?アッチの方はどうなの?」
「あっち?」
急に小声で話し始める梨乃にそう聞き返す。
一体何の話だろう?
「もうとぼけないでよ!夜の方に決まってるでしょ!」
「っ…」
「もうシちゃったの?…あっ、でも先輩ああ見えて結構奥手とか?」
「……、」
いえ、もう正式に付き合う前にシちゃいました、とは言いづらい。
けれどあの日以来、私たちは体を重ねていなかった。
今週は何かと忙しく、残業する事も多かったからだ。
相変わらず先輩とは、通勤も帰宅も一緒にはしていたけれど…
「そ、そろそろ休憩時間も終わるし、私もう行くね!」
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
呼び止める梨乃の声を無視し、私は慌てて食堂を出た。
これ以上詮索されても返答に困る。
(さてと…資料室に行かなくちゃ)
午後は野宮先輩から資料室に来るよう言われていた。
何か調べものがあるらしく、それを手伝ってほしいとの事だ。
「ああ…来たか」
「お疲れ様です」
資料室へ足を運ぶと、そこにはすでに先輩の姿があった。
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