第4章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】②
「そうだ!」
不意に紗良は顔を上げ、勝ち誇ったように胸に手を当てる。
「言っておくけど、今日はあたしが詞織と出かける予定だから!」
「えっ⁉」
「アンタ、今日は詞織に会えないわよ!」
「ま、マジ?」
黄瀬は昨日知った詞織の携帯に連絡を入れる。
程なくして、詞織から、あの固い文章で返事が来た。
――言っていませんでしたね、申し訳ありません。会う約束をしていなかったので、勝手に、今日は会わないものだと思っておりました。今日は紗良と約束があります。
……ガーンッ。
『明日から本気でいくから、覚悟するっスよ』とかカッコつけておいて、これなのか。
「恥ずかしくて消えてしまいそうっス」
「だったらそのまま消えろ」
ばっさりと切り捨てられた黄瀬は、膝を抱えてシクシクと泣いてしまう。
「……あたし以上に、詞織を好きな人間なんて、いないと思ってたのに……」
「え? 何か言ったっスか?」
風に溶けて消えた紗良の言葉を聞き返すが、結局それを知ることはなかった。
* * *
「黒子っち~」
「何ですか、黄瀬くん」
「オレ、どうしたらいいっスかね?」
「何のことかさっぱり分かりませんが、お力になれそうにないので他を当たって下さい」
相変わらずつれない。
だが、そんな態度には慣れっこだ。
偶然にも、帝光中時代の親友(黄瀬談)に会った黄瀬は、マジバーガーで話をしていた。
黒子は、近所にある店で品切れしていた本を買うべく、こっちまで来ていたらしい。
髪と同じ水色の瞳は黄瀬をちらりと見るが、興味なさそうに逸らした。
「オレ、好きな子がいるんスけど、フラレそうなんスよね」
「へぇ、珍しいですね。君がフラれるなんて」
「まだフラレてないっスよ!」
『ごめんなさい』って、まだ言われてないし。
『断りたいけど』って書いてあったが、まだセーフ……のはずだ。