第4章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】②
「何ですか、その顔」
「どんな子か気にならないんスか?」
「興味ありません」
ジュー、と黒子は好物のバニラシェイクを吸い上げた。
だが、これは本気ではないのだ。
親友(あくまでも黄瀬談)の自分には分かっている。
本当は気になって仕方がないのだ。
「詞織っちはぁ……」
「聞いていませんが」
「可愛くてカッコよくて強くて優しくて可愛くて頭も良くて運動もできる可愛い子っス! マジ天使っス! オレの胸キュンポイントを的確にプッシュしてくるっス!」
「そうですか」
まぁ、それだけが好きな理由ではないが。
「あ、写真見るっスか?」
「見ません」
「またまたぁ」
そう言って、黄瀬は携帯から写真を呼び出した。
「この子っス」
「遠いですね。それに横顔です。これでは、顔が判然としません」
「この前、マジバでトイレに行ったときにこっそり頂いた一枚っス」
「隠し撮りですか。黄瀬くん、サイテーですね」
「オレの元気の源っス」
詞織が写った画面を見ていると、自然と顔がにやけてしまう。
会いたい、声が聞きたい、また抱きしめたい。
どうして今日は会えないんだ。
「黄瀬くん、取り柄の顔が大変なことになっていますよ」
「しょーがないっスよ。詞織っちのこと考えてたら、自然と顔が緩むんス」
「重症ですね。病院に行ったらどうですか?」
「オレのこの病気を治せるのは詞織っちだけっス!」
言いながら、黄瀬は飲み物に口をつける。
「で、その詞織さんは?」
「親友と出かけるって言ってたっス。この親友って人が、めっちゃ怖くて」
「そうですか」
「オレと会うとき、いっつも紙袋かぶってんスよ⁉」
「紙袋?」
「ファンに目をつけられるとイヤだから」
「賢明な判断ですね」
「他人行儀に苗字で呼べって言われたっス」
「キミのこと、友達だと思ってないんでしょう」
「こんな雑な扱い、生まれて初めてっス!」
「そうでしょうか?」
「……え?」
そう聞き返すと、黒子は素知らぬ顔でシェイクを吸い上げた。