第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「……この公式にそれぞれの数字を入れて計算すると、今度はこちらの数式と辻褄が合わなくてなって……黄瀬さん?」
集中できていないことに気づいたのか、詞織が黄瀬を呼ぶ。
「……へ? あ、えっと……どうするんスか?」
慌てて意識を課題に戻すと、彼女は気分を害した様子もなく教科書の公式を指差した。
「こちらの公式を使って下さい。この値に問題文のこの数を入れて……」
「それで計算するんスね。えっと……」
「……はい。……そう、そこで出た答えを合わせて……正解です」
クスクスと小さく上品に笑いながら、楽しくなってきたのだろうか。
詞織が鼻歌をうたい始めた。
誰の曲かは分からない。
カラオケを趣味に上げるだけあって、流行りの曲ならだいたい把握しているはずだが。
アレンジしているのだろうか。
「それ、何て曲っスか?」
「え……曲? あ、申し訳ありません。うるさかったですよね」
「そうじゃないっスよ。ただ、メロディーが好きだったから、何て曲か知りたかっただけっス」
慌ててフォローすれば、彼女は少しだけ悲しそうに笑った。
「ありがとうございます。私が少し、戯れで作った曲ですから……これより前も後もないんです」
「へぇ、スゲー。曲も作れるんスか」
「まさか。音を組み合わせただけですから、曲なんて言うのもおこがましいです」
やはり、その言葉は謙遜というには自嘲を含みすぎていて。