第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「あのっ、き、黄瀬さんっ?」
戸惑った声が可愛くて、胸がギュッと音を立てる。
「来ないかと思ったっス……」
「……っ」
耳に息が掛かったのか、彼女の身体がビクッと震えた。
……カワイイ。
さらさらと流れる黒髪を撫でる。
絹のような滑らかさに、気持ちがどんどん高ぶった。
――『何なのアンタ。詞織とどうなりたいわけ?』
昼間の紗良の言葉を思い出す。
はっきりと分かった。
最初から答えは出ていたんだ。
初めて会って、もう一度会いたいと思った、あのときから……。
「……好きっス……詞織っち」
時間が永遠に感じられた。
どれだけの時間が経ったのか、そんな感覚さえ曖昧になる。
……やがて。
「……き、黄瀬さん?」
詞織が微かに身じろぎし、名前を呼ばれて、黄瀬はようやく我に返った。
「え、あっ……」
今、自分は何を言った?
そのことを思い出し、思わず口元を覆う。
「あ、オレ、その……」
何を言いたいのかも分からず、言葉にすらなっていない。
詞織を窺うと、彼女は顔を真っ赤にして黙っていた。
可愛い。その一言に尽きる。
天使のような可愛いさ、という表現があるが、そんな次元じゃない。
目が少し泳いでるところが、またとてつもない破壊力である。
また抱きしめたくなってきた。
そんな欲望を必死で抑え込み、黄瀬は言葉を探した。
「「あの」」
同時に口を開く。