第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「鴇坂サンって、『甘やかされて育った苦労知らず』なんスか?」
ポツリと零した――瞬間。
紗良は目を吊り上げ、胸倉を掴んで揺さぶってきた。
「何よそれ! アンタが言ったのっ⁉」
ガクガクと身体が揺れるのと同時に脳が揺さぶられる。
「い、イヤ、違うっスよ! オレじゃなくて、鴇坂サンが……」
揺さぶられすぎて、気持ち悪くなってきた。
「え、詞織?」
ピタッと揺れが止まる。
同時に、今までの空気が変わった。
どこか泉のように、澄んだ冷たい空気に。
「ど、どうしたんスか、更科サン?」
「あの子……まだやられてるのかしら?」
「あの、話についていけないんスけど……」
まだ、やられてる?
意味深な発言に聞き返すが、「言うわけないでしょ」と一刀両断された。
……ですよねー。
しかし、彼女の言葉から嫌味は感じない。
「まぁ、昨日のことは詞織から大体聞いてるけど」
「マジ⁉」
「マジ。『黄瀬さんに、「明日も待っている」と言われたのですが、やはり行った方がいいですよね?』」
「う……っ」
「何なのアンタ。詞織とどうなりたいわけ?」
「そ、そりゃあ……」
そこまで言って、言葉に詰まった。
分からなくなった。
もう一度会いたい。
そう思っていたけど。
実際に会ってみて、言葉を交わしてみて。
彼女の優しさを、強さを、可愛さを知って。
あの悲しげな表情を見て、弱い部分も知った。
もっと、もっと知りたいと思って。
また、会いたいと思って。
自分は、詞織のことをどう思っているのだろうか?
* * *