第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
翌日の昼休み。
黄瀬の目の前には、紙袋を被った怪しげな女が立っていた。
目のところに穴が空けられていて、そこから覗く勝気な目が余計に不気味だ。
「ちょっと顔貸しなさい」
聞き覚えのある声。
そして、彼はその怪しげな女に、屋上へ連れてこられた。
陽射しが降り注ぐ屋上は誰もおらず、自分と怪しげな女の二人。
もしかしてピンチなのだろうか。
大人しくついて来ず、逃げた方が良かったのかもしれない。
そう思いつつも「誰っスか?」と恐る恐る聞いてみた。
「あたしよ」
紙袋をちらりと外してくれる。
「あ、更科サン!」
「しぃーっ! そんな大きな声で呼ばないでよ! どこで聞かれてるか分からないんだから!」
言いながら、紗良は紙袋をかぶり直す。
「な、なんスかそれ?」
「アンタのファン対策よ。目ぇつけられたくないから」
「恥ずかしくないんスか?」
「勘違いで恨まれるより数倍マシ」
そ、そうか。
何だか、申し訳ない気持ちになり、心の中で謝罪する。
「それで? 詞織とはどうなったの?」
「お兄さんが迎えに来たっス」
「快音さんが?」
「知ってるんスか?」
「そりゃあね。あたしも中等部の途中までは鴇坂に通ってたし」
「へぇ~」
当然ではあるが、知らなかった。
「それにしても、いきなりすごいのに会ったわね」
「すごいのっスか?」
「そりゃあね。鴇坂家の人間って、詞織も含めてすごいけど、その中でも規格外の天才よ」
「規格外の天才って……スケールデカすぎてよく分かんねっス」
「まぁ、一種の化け物? 勉強も運動も芸術も、全部完璧。それに顔もね。性格に難ありだけど、それに目を瞑れば非の打ちどころのない人間よ。神に愛されてるって、あぁいう人のことを言うのねって感じ」
「家、そんなに厳しいんスか?」
「まさか、全然。理事長……あ、詞織のお父さんね……は、子どもの意志を尊重する、良い意味で自由主義だし。厳しいことなんてないわ」
「そっスか」
だったら何故、あんな暗い顔していたのだろうか。
家族の話になるたびに曇る、詞織の表情。
何か、言っていなかっただろうか?
そして、思い出す。