第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「お兄さんスか? あまり歳変わらないんスね。年子?」
「いえ、快音とは双子で」
双子。通りで似てるわけだ。
だが、詞織の表情はどこか曇っていた。
何だろうか。
家族の話題になると、悲しいというか、暗い顔している気がする。
それが気になって。
そんな彼女の表情に、彼の心臓は切なく締めつけられた。
この短い時間で、自分の中の彼女の存在がどんどん大きくなっている。
「それでは、黄瀬さん。今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「あっ、待って……っ」
丁寧にお辞儀をして去って行く彼女の細い腕を、黄瀬は咄嗟に掴んだ。
「え?」
大きな深海の宝石が黄瀬を見上げる。
頭一つ分以上低い詞織を見下ろしながら、彼は手を離せずにいた。
「また、会ってほしいっス」
これで終わりにしたくない。
もっと、彼女のことが知りたい。
詞織の笑い声が、鼓膜に残っていた。
それは昼間の女たちとは違う、耳に心地良い声。
触れた手が熱くて、そこから身体中に熱が伝わっていく。
「詞織」
そんな黄瀬の熱を冷ますように、低い声が彼女の名前を呼んだ。
詞織とは真逆の、冷たい片割れ。
快音、と呼ばれていた彼女の兄が、痺れを切らして店内に入って来たようだった。
「ご、ごめん、快音」
そう謝罪して、彼女はこちらを見てきた。
「ごめんなさい。わたし、行かないと……」
困ったように、彼女の深海の瞳が揺れる。
まだ、一緒にいたい。
詞織は手首を掴む黄瀬の手に触れ、優しく解く。
去って行く後ろ姿に、彼は思わず声を掛けた。
「明日も駅前で待ってるから!」
微かに、彼女が振り返る。
けれど、兄に手を引かれて行く詞織が返事をすることはなかった。
* * *