第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「全然そんなことないっスよ! 昨日も不良やっつけて、さっきだっておばあさん助けてたじゃないスか! 苦労知らずなんかじゃないっス!」
咄嗟にテーブルを叩いて、身を乗り出した。
つい力が入った彼に、詞織が目を丸くする。
「あ……えっと……」
何をやっているんだ自分は。
相手を困らせてどうする。
気恥ずかしさを紛らわすように、再びストローに口をつける。
すると、詞織は口元に手を当て、肩を震わせながら小さく噴き出した。
「あは、ふふふっ」
「え、笑うとこっスか?」
「いえ……ごめんなさい。でも……ふふ。そんな必死にならなくても……ふふっ」
あ、少し口調が砕けている。
そんな些細なことに気づき、黄瀬は嬉しくなった。
しばらくして、ようやく気持ちが落ち着いたのか、彼女はオレンジジュースに口をつけた。
「いつも人助けしてるんスか?」
「まさか、いつもじゃありませんよ。わざわざ困っている人を探しているわけではありませんし」
まぁ。普通はそうだろう。
「見かけたら声を掛けるようにはしています」
「それって、“いつも”ってことっスよね?」
コテンと首を傾げる詞織。
こんな小さな身体で、いつも人を助けているのか?
こんな細い腕で、昨日のような不良を相手にして?
「危ないっスよ。怖くないんスか? 昨日みたいなことだって、初めてじゃないってことっスよね?」
「怖いと思ったことはありませんよ。だって、怖い思いをしているのは、わたしではないですから。それに、助ける力があるなら、助けないより助けた方が、ずっとカッコいいでしょう?」
優しそうな笑みを浮かべていた詞織は、ふいに表情を曇らせる。