第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「そんな……お嬢さまなんて大げさなものではないですよ。確かに、お金に不自由したことはありませんが……家は普通ですし、お手伝いさんもいませんし、家事も洗濯も母が一人でやってくれていますので」
「その喋り方ってクセっスか?」
「喋り方ですか? そうでもないですよ。紗良とは小学生の頃からのつき合いですし、家族にもそれなりに砕けた話し方をしていると思います」
「だったら、オレもそれがいいっス!」
「そうですね。会ったばかりなので、まだ緊張しているのかもしれません」
あ、これは拒否された感じだろうか。
地味にショックだ。
そもそも、詞織と紗良は、世間の女子からズレてはいないか。
詞織は自分のことを知らなかったし、紗良は黄瀬を知っていながら、かなり雑な扱い方をしてくる。
気を遣わなくていいから、楽なのだが。
「他にも聞いていいっスか?」
「どうそ」
オレンジジュースを飲みながら、詞織は頷いてくれた。
「キョーダイとかいるんスか?」
「姉と兄がいますよ」
そういえばさっき、不良を倒した合気道は兄の見よう見真似と言っていた。
「へぇ、ちょっと意外。弟か妹がいると思ったっス」
「よく言われますが、実は末っ子です。甘やかされて育った苦労知らずですよ」
そのセリフは、どこか自嘲気味に聞こえた。
表情も、どこか暗く曇っていて、悲しそうに見える。