第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「……ところで黄瀬さん。わたしとどこかでお会いしましたか?」
「え? あぁ、昨日、駅前で女の子を助けてるのを見かけて……」
そこまで言って、黄瀬は自分の失態に気がついた。
それを言ってしまっては、ギャラリーと黙って傍観していたことがバレてしまう。
「あ、あの、オレ……っ」
青い顔でどうにか言い訳しようと口を開いたが、彼女は特別気分を害した様子なく、「そうでしたか」と頷いた。
「お見苦しいところをお見せしまして……」
「そんなことないっス! カッコよかったっスよ、鴇坂サン。何か、すっげー技で不良を倒して……」
眉を下げて申し訳なさそうに笑う詞織の言葉を、黄瀬はそう言って否定した。
すると、彼女は深海色の目を丸くして一度驚いて。
「あれは、合気道です。……と言っても習っているわけではなくて、兄の見よう見真似ですが……でも」
そこで言葉を切った彼女は、顔を綻ばせて。
「ありがとう」
ニコッと嬉しそうに笑ってくれた。
「……っ!」
詞織の可愛さに、黄瀬は顔を伏せて悶える。
ちょっと、待ってくれないか。
何なのだ彼女は。
こちらをキュン死させる気なのか。
「あの、黄瀬さん? 大丈夫ですか?」
「だ、だいじょぶっス!」
気遣う詞織に、彼はからからに乾いた口の中を潤す為に、ストローに口をつけて飲み物を口に含んだ。