第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「あの、紗良から聞いたのですが、『キセキのバスケ』の方で、モデルもされているとか」
『キセキのバスケ』ではなく、『キセキの世代』である。
しかし、そんな間違いも可愛い。
「……って、オレのこと知らないんスか?」
これでもそれなりに名の知られた人気モデルで、帝光中の頃のバスケでの活躍でキセキの世代に名前を連ねている。
自分で言うのもなんだが、知名度も高い……はず。
そんな気持ちが表情に出ていたのだろうか。
詞織は申し訳なさそうに眉を下げた。
「申し訳ありません。わたし、流行りに疎くて……おそらく、紗良も分かっていたのでしょう。気を遣って写真画像を送ってくれました」
それで写真を撮られたのか。
できればもっと、雑誌に載ってるみたいなカッコいい写真にしてほしかった。
わざわざあんな写真を送るなんて、嫌がらせとしか思えない。
「あの写真は消してもらえると嬉しっス」
しょんぼりしてしまう。
同時に記憶からも消してほしい。
すると、彼女はハッとした表情をする。
「あ、そうですよね。モデルの方の、お仕事でない写真を残しておくのは良くないですもの。配慮が足らず申し訳ありません」
どうぞ、とアルバムを開いた状態で携帯を差し出された。
消していい、ということだろうか。
ちゃんと消したか、不安に感じると思ったのかもしれない。
可愛いだけじゃなく、気遣いもできるなんて。
なんだか、温かい気持ちになる。
自身の情けない姿の写真を削除して、黄瀬は彼女に携帯を返した。
「はい、ありがとうございます」
詞織が大人びた表情で微笑む。
それは、昨日見たものと同じ笑顔だ。
トクンと胸が脈打つ。