第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「黄瀬、今日部活?」
「え? あ……そっスね。部活っス」
「そ。……詞織? うん。アンタに会いたいってヤツがいてね。……そう」
人気モデルを「ヤツ」呼ばわりしながら再び話し始めた紗良は、しばらくしてもう一度話を振ってきた。
「部活が休みの日ってあるの?」
「えっと、……しばらくはずっと部活……」
これでは、いつまでも会えないではないか。
あぁ…と頭を抱えてしゃがみ込むと、紗良は呆れたように息を吐いて通話を再開した。
「……うん、分かった。じゃあ、そう言っとく。今日は彼氏と約束があるから、あたしは行けないけど……よろしくね」
通話を終えた紗良は、冷ややかな目で黄瀬を見下ろした。
「ちょっと、デカイ図体でそんなトコにうずくまらないでくれる?」
相変わらず辛辣だ。
しぶしぶ立ち上がった彼に、紗良は口を開く。
「今日、駅前。時間はアンタの部活が終わる頃」
「……へ?」
「言っとくけど、取り次ぐのはこれが最初で最後だから」
「あ、会えるんスか? 詞織サンに」
「何よ、会いたくないなら今からでもそう連絡入れるわよ」
「い、行くっス! 絶対行くっス! 死んでも行くっス!」
ヤバイ、顔が緩む。
そんな黄瀬の顔を見て、紗良は不快そうに眉を寄せた。
「アンタ……詞織に何かしたらただじゃおかないから」
そう言うと、更科サンはオレに携帯を向ける。
カシャっとカメラの音が鳴る。
「な、なんスか、急に!」
しかし、抗議の声を遮って、彼女は「それと!」と、指を突きつけてくる。
「馴れ馴れしく詞織のこと『詞織サン』なんて呼ばないで。他人行儀に『鴇坂さん』と呼ぶこと!」
……またそれか。
* * *