第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「一応、確認させてくれる?」
疑っているのだろうか。
黄瀬は紗良の小さな手に自分の携帯を置く。
ここまできたら、どこまでも言う通りにしよう。
「別に、どうこうするつもりはないわ。軽く目を通すだけだから」
本当にザックリと目を通しただけで、彼女は携帯を返してくれた。
そして、大きくため息を吐く。
「ホントにバカね。普通、一回見ただけの女のためにここまでする?」
そのとき、黄瀬の携帯のバイブが鳴った。
「何? バイブにしてるの?」
「昼休みからずっと鳴りっぱなしなんスよ」
うんざりと零す。
液晶画面を見ると、知らない番号。
おそらく、メモリから消した女だろう。
「出なくていいわけ?」
「別に。必要ねぇっスわ」
どうせ、外見だけを見て騒いでるだけ。
黄瀬は躊躇わずにその電話を切った。
「ふぅん。もっといい加減なヤツだと思ってた」
その評価も慣れている。
来る者拒まず、去る者追わず。
モデルをやっていることもあり、ファンに対してそれなりの態度を取らなければならないからだ。
けれど、それをはっきりと言ってくるのは珍しい。
『モデルの黄瀬 涼太』や『キセキの世代の黄瀬 涼太』を見て騒ぐだけのファンよりも、よほど好感が持てる。
それに、思っていることをそのまま口にし、自分に媚びてこない彼女は、話をしていても不快感を抱かなかった。
気が楽だ……少し怖いが。
彼女は自分の携帯を取り出し、どこかへ電話を掛け始める。
「もしもし、詞織?」
ドキッと心臓が跳ねた。
紗良の電話の向こうに、待ち望んだ彼女がいる。
そう考えただけで、身体中の血が騒いだ。