第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
紗良と別れて、黄瀬は携帯に入っている女に片っ端から連絡を入れていた。
『えぇ⁉ 何それ! どういうこと⁉ ねぇ、ちょっと……っ』
「そういうことだから」
プツッと音を立てて通話を切り、その女の名前をメモリから消す。
それを何度も何度も繰り返していた。
もう会わない、遊ばない。
そう言って「え、何で⁉」と言う女を振り切り、電話を切って、その女のメモリを消す。
そんな単純作業。
何をやっているのだろうか、自分は。
耳に女たちの悲鳴のような、耳障りな声がこびりついている。
「はぁ……」
このため息も何度目になるか分からない。
こんなことまでして会って、自分は一体何をしたいのだろう。
彼女に会いたい。
たったそれだけのことのために、黄瀬は再び携帯のメモリから別の女のところへ電話を掛けた。
――それから、放課後。
部活に行くより早く、黄瀬は紗良のところへ行った。
「何よ、黄瀬 涼太」
やや警戒した眼差しと声音は黄瀬ではなく、彼のファンに対してだろう。
「言われた通り、女は全部切って来たっスよ」
「ウソでしょ⁉」
「ウソじゃないっス」
驚きに目を丸くする紗良。
当然だろう。
たった一度だけ目にした少女に会うために、遊び仲間の女を切る。
どう考えても割に合わない。
「まさか、ホントにしてくるなんて思わなかったわ。てっきり、諦めるとばかり……」
それは黄瀬も同じだ。
自分でも自分が分からなかった。
ここまですることだろうか、と何度も考えて。
それでも、諦めることはできなかった。
呆れたように見上げてくる紗良は、気を取り直したのか手を差し出してきた。