• テキストサイズ

たとえば、キミを愛する倖せ【短・中編集】

第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①


 紗良と別れて、黄瀬は携帯に入っている女に片っ端から連絡を入れていた。

『えぇ⁉ 何それ! どういうこと⁉ ねぇ、ちょっと……っ』

「そういうことだから」

 プツッと音を立てて通話を切り、その女の名前をメモリから消す。
 それを何度も何度も繰り返していた。

 もう会わない、遊ばない。

 そう言って「え、何で⁉」と言う女を振り切り、電話を切って、その女のメモリを消す。
 そんな単純作業。

 何をやっているのだろうか、自分は。
 耳に女たちの悲鳴のような、耳障りな声がこびりついている。

「はぁ……」

 このため息も何度目になるか分からない。
 こんなことまでして会って、自分は一体何をしたいのだろう。

 彼女に会いたい。

 たったそれだけのことのために、黄瀬は再び携帯のメモリから別の女のところへ電話を掛けた。


 ――それから、放課後。


 部活に行くより早く、黄瀬は紗良のところへ行った。

「何よ、黄瀬 涼太」

 やや警戒した眼差しと声音は黄瀬ではなく、彼のファンに対してだろう。

「言われた通り、女は全部切って来たっスよ」

「ウソでしょ⁉」

「ウソじゃないっス」

 驚きに目を丸くする紗良。
 当然だろう。
 たった一度だけ目にした少女に会うために、遊び仲間の女を切る。
 どう考えても割に合わない。

「まさか、ホントにしてくるなんて思わなかったわ。てっきり、諦めるとばかり……」

 それは黄瀬も同じだ。

 自分でも自分が分からなかった。
 ここまですることだろうか、と何度も考えて。
 それでも、諦めることはできなかった。

 呆れたように見上げてくる紗良は、気を取り直したのか手を差し出してきた。
/ 196ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp