第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「気安く紗良なんて下の名前で呼ばないでくれる? ここは他人行儀に『更科さん』と呼びなさい!」
えぇっ⁉ 何この人、怖っ!
『他人行儀に呼ばないで』は聞いたことあるが、『他人行儀に呼べ』なんて聞いたことがない。
「で、詞織が何?」
また、切り替わりが早い。
色んな意味でドキドキしてしまう。
まだ出会って数分も経ってないのに、驚きしか出てこなかった。
しかし、彼女に会うには紗良を頼る他にない。
黄瀬もどうにか頭を切り替えて、尋ねることにする。
「その、詞織サンなんスけど、オレ、その人に会いたいんスよ」
「はぁ?」
「だから、連絡先とか教えてもらえないスか?」
色々考えたものの、どう伝えていいのか分からず、ストレートに頼んでみる。
「アンタ、バカなの?」
「いや、そんなに頭は悪くないっスけど……」
勉強はそこそこできる方だ。
誰かにバカ呼ばわりされるほどではない。
「そんなわけないわ。アンタはバカよ。大事な親友の個人情報をホイホイ人に教えるわけないでしょ」
「こ、じん……? あ……そ、っスね」
個人情報。
そんなこと考えもしなかった。
聞けば教えてもらえると勝手に思い込んでいたのだ。
彼女の言う通り、自分はバカだ。
指摘されて初めて、自分が考えなしであったことを理解する。
頭を抱えていると、紗良は勝ち誇ったように笑った。