第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「ほらほら~、ちょっとつき合ってくれるだけでいいからさ」
「ご飯まだでしょ? お兄さんたちが奢ってあげるよ~」
そんな不良たちの言葉に、少女は目に大粒の涙をためながら、取れてしまうのではないかと思うほど激しく首を振って抵抗する。
「リョータ、行こ」
「あぁ、そっスね」
右腕に腕を絡める女子に促され、彼は足の向きを変えようとした、そのときだった――。
「――やめなさい!」
喧騒の中に、凛と澄んだ声が響く。まるで、一筋の矢のように真っ直ぐと。
向きを変えようとしていた足が縫い止められた。
怯える少女の前に、黒髪を靡かせる少女が現れる。
「嫌がっているのが分かりませんか? ここは引いて下さい」
不良二人の陰に隠れてしまって顔は分からないが、声の感じから自分とそんなに歳は変わらない。
二人の不良に怖気づくことなく言葉を続ける彼女に、不良たちはにやりと笑ったように思えた。
「なに? キミが代わりにつき合ってくれンの?」
「へぇ、健気だね~。キミ、この子の友達?」
「いいえ、彼女のことは知りません。それに、この後は友人と約束がありますので、あなたたちにつき合うこともできません」
猫なで声で尋ねながら、舐めまわすように自分を見回す不良に、彼女は毅然と答えた。
そんな彼女を見て、周りにいた女子たちが小さく笑い出す。
「なに、知り合いじゃないの?」
「バカじゃん、頭悪いわけ?」
「あの子も終わったんじゃない? 超ウケル」
「写真撮っちゃう?」
「ネットに上げちゃう?」
「こんなバカがいました~みたいな?」
人の勇気を平気で笑う女子たちに不快感が込み上げてきた。
ピロリ~ン、と黄瀬の左腕に腕を絡ませたまま、女子の一人が写真を撮る。
周囲にも段々とギャラリーが集まり、中には女子たちと同じように、写真や動画を撮り始める者もいた。