第2章 たとえば、君に触れる倖せ【夢100/アピス】
「どうしたの? そんな顔して」
そう言って、アピスは詞織の手を取り、口づけを落とした。
息を呑んで手を引こうとしたが、彼がそれを許さない。
「僕は君を……いつでも僕の思い通りにしたい」
もう二度と、彼女を危険に近づけない。
いつでも笑っていられるように。
ただ、笑って謳えるように。
自分が詞織を管理しよう。
「満たされない僕の心に、詞織……君が愛を注いでくれたんだ。だから、空っぽだっていう君に、今度は僕が愛を注いであげる。きっと、すぐに溢れちゃうだろうけど……」
大丈夫だよ。
どんな君だって、愛せる自信があるから。
「アピスさん、わたしは……」
何かを言おうとする詞織の唇を塞ぐ。
ん…と、くぐもった声が可愛いかった。
彼女の唇は、熱くて柔らかい。
やはり、まだ熱が下がりきっていないのだろうか。
ピリピリと頭の芯が甘く痺れてくる。
彼女との口づけは、何にも代え難いほど甘美で、一種の毒性がある気がした。
一日中だって続けられるだろう。
抗うように胸を叩いてくる詞織の小さな手を握り、指を絡める。
このままでは彼女が窒息死してしまうと気づいて、アピスはようやく唇を離した。
「は……っ、はぁ……っ」
肩で荒く息をする詞織の長い髪を耳にかけ、滑らかな頬に口づける。
こんなことで参ってたら、身がもたないよ。
そう簡単に、離すことなどできないのだから。
「今いる婚約者とは別れるよ。僕の婚約者は君だけだ」
近いうちに、謳魔法の国シンフォニアに正式に申し入れ、承諾を得た時点ですぐに結婚式を挙げる。
「そ、そんな……急に……」