第2章 たとえば、君に触れる倖せ【夢100/アピス】
「急……そうだね。自分でも驚いてるよ。でも、断られるなんて思ってない。僕以上に、君を愛せる男なんていないんだから」
アピスの王子としての評価は、母親のおかげで高いものとなっている。
詞織は顔を伏せた。
そんな彼女の頬に、アピスは手を添える。
「……僕と結婚するのは嫌? ……僕のことが、嫌い?」
顔を上げた詞織の表情は、様々な感情が入り混じっていて、正確に読み取ることはできなかった。
ただ、彼女の黒水晶の瞳には、不安げに蜂蜜色の瞳を揺らす自分が映っている。
彼女はアピスの肩口に額をつけると、ふるふると首を振った。
「でも……わたし、まだ何も知らない……」
「だったら知ってよ。僕のこと……僕がどれだけ、君を好きなのか……」
詞織の身体を抱きしめる。
それだけで、心が満たされた。
「ねぇ……君の具合が良くなったらでいいんだ。また謳を聴かせて? 君の謳が聴きたい」
少し躊躇って、詞織は頷く。
「……うん……いいよ……」
いつもとは違う口調に、アピスの中で愛しさが増した。
いいよ、まだ『好き』でなくても。
今はまだ、『嫌いじゃない』で。
すぐに、僕の気持ちに追いつくさ。
【たとえば、君に触れる倖せ 了】