• テキストサイズ

たとえば、キミを愛する倖せ【短・中編集】

第2章 たとえば、君に触れる倖せ【夢100/アピス】


「急……そうだね。自分でも驚いてるよ。でも、断られるなんて思ってない。僕以上に、君を愛せる男なんていないんだから」

 アピスの王子としての評価は、母親のおかげで高いものとなっている。

 詞織は顔を伏せた。
 そんな彼女の頬に、アピスは手を添える。

「……僕と結婚するのは嫌? ……僕のことが、嫌い?」

 顔を上げた詞織の表情は、様々な感情が入り混じっていて、正確に読み取ることはできなかった。
 ただ、彼女の黒水晶の瞳には、不安げに蜂蜜色の瞳を揺らす自分が映っている。

 彼女はアピスの肩口に額をつけると、ふるふると首を振った。

「でも……わたし、まだ何も知らない……」

「だったら知ってよ。僕のこと……僕がどれだけ、君を好きなのか……」

 詞織の身体を抱きしめる。
 それだけで、心が満たされた。

「ねぇ……君の具合が良くなったらでいいんだ。また謳を聴かせて? 君の謳が聴きたい」

 少し躊躇って、詞織は頷く。

「……うん……いいよ……」

 いつもとは違う口調に、アピスの中で愛しさが増した。

 いいよ、まだ『好き』でなくても。

 今はまだ、『嫌いじゃない』で。

 すぐに、僕の気持ちに追いつくさ。



【たとえば、君に触れる倖せ 了】

/ 196ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp