第2章 たとえば、君に触れる倖せ【夢100/アピス】
「すぐに止めて下さい! 木も花も草も……蜂だって生きているんです! そんな理由で殺さないで! わたしは大丈夫だから……!」
あぁ、君は……こんな小さな命の為にも、心を痛めるのか。
けれど。
「悪いけど、止める気はないよ」
そう言って、彼は詞織の手を取った。
ビクッと身体を震わせた彼女の手の甲は、まだ治りきれないようだ。
「まだ腫れてる……でも、昨日に比べれば、だいぶマシになったのかな?」
「え……あの……アピス、さん……?」
「あぁ、でもまだ、ちょっと顔が赤いな」
戸惑う詞織の顔が赤く熱を持っている。
今朝は熱が引いていたようだったが、身体を起こしたせいでまた上がったのだろうか。
アピスはできる限りそっと彼女の身体を抱き上げた。
「あ、アピスさん……ッ⁉︎」
驚く彼女を無視して、彼は詞織を庭のベンチに座らせる。
「君が昨日倒れて、心を搔き乱された。心配で仕方なかったんだ。これが愛するってことなんだろう?」
「え……えっと……?」
理解が追いつかないのか、詞織は戸惑うばかり。
そんな彼女も、可愛いと思った。
母親の気持ちがやっと分かった気がする。
愛すると言うのは、その人に干渉したくなることなのだ。
今なら、この行為の尊さも理解できる。
愛することを煩わしく思うのは、愛する誰かを見つけられていないから。
まさに、その通りだったのだ。
「君を刺した蜂が憎い。だから、二度と近づかないようにしてる。まだ君の顔が赤いことが心配。だからベッドに連れ戻したい。君にこうしてずっと触れていたい……触れたりするの、あんなに嫌いだったのになぁ」
きっと、君だからだね。
クスクスと笑えば、詞織の顔は、戸惑いの中にありながら、ますます赤くなった。