第2章 たとえば、君に触れる倖せ【夢100/アピス】
それから、行動を起こしたのは早かった。
アピスは城にいる庭師を全員集めて、命令を下す。
「そこの花も全部。あぁ、それから、庭の木も全て伐採して」
目的はただ一つ……詞織を傷つけた蜂を駆逐すること。
「アピス様……それはあまりに……」
横暴だ、とでも言おうとしたのだろうか。
毒蜂対策として防護服を見に纏った庭師が苦言を呈そうとするのを、アピスは無言の圧力で黙らせる。
そこに何を感じたのか、庭師は「し、失礼しました!」と謝って作業に戻った。
横暴だと思うなら、勝手に思っていればいい。
本当なら、世界中から蜂を殲滅させてやりたいのに。
一度自覚した感情は、箍(たが)が外れたように溢れて止まらない。
彼女を大切だと、愛しいと感じる気持ちは、一分一秒ごとに高まっていた。
同時に、蜂への憎しみも……。
毒薬の国では、毒を持つ蜂は『共同経営者』のような存在だ。
毒蜂の毒は、確かにこの国を繁栄させる一助を担っていた。
そんな毒蜂たちも、まさかこんな目に遭うと思ってもみなかっただろう。
やがて、木々のほとんど伐採された頃、騒がしさに目を覚ましたのか、詞織が慌てた様子で中庭に現れた。
「詞織……もう起きて大丈夫なの?」
それに答えることなく、彼女は驚きと戸惑いの混じった声で口を開く。
「アピスさん! これはいったい……」
「君を傷つけた蜂を駆逐してる。危ないから、近づいちゃダメだよ」
何が起きているのか理解できない詞織を下がらせると、彼女は「そんな……」と、悲しさに顔を曇らせた。