第2章 たとえば、君に触れる倖せ【夢100/アピス】
何かがその茂みから飛び出し、アピスに迫る。
毒蜂だ、と思ったときには、避けるには遅く。
「アピスさん……っ!」
昨日、出迎えたときと同じ様に、彼女はアピスを庇った。
違ったのは、触れた温もりを彼が拒絶しなかったこと。
そして――……。
「詞織!」
傾いだ細く小さな身体を抱きとめる。
アピスは頭で考えるより早く、詞織の刺された手の甲に唇を寄せ、毒を吸い出した。
毒が回っているのか、手は熱いのに、彼女の身体は熱を失っていっていく。
「即効性の毒を持っている蜂だ……こんなの、気休めにしかならない。すぐに解毒しないと……っ!」
すると、力が入らないはずなのに。
詞織は手を伸ばし、アピスの頬に触れる。
しかし、彼が触れられることを嫌うと思い出したのか。
彼女はすぐに手を引いた。
現時点ですでに抱きとめているというのに。
焦点の合わない瞳が、アピスの蜂蜜色の瞳を探して彷徨う。
「だい……じょうぶ、ですか……? どこか、痛いの? かなしそうな、お顔……してる、みたいに、見え――……」
「詞織……っ!」
黒水晶の瞳が閉じられる。
力が抜けて落ちる手を、アピスは躊躇わずに取った。
冷たくなっていく詞織の名前を、彼は何度も何度も叫んだ。
* * *