第2章 たとえば、君に触れる倖せ【夢100/アピス】
「アピスさん。顔色、少し悪くなってきてますよ? 少し休んだ方が……」
「しつこいよ。熱もだいぶ下がったし、大丈夫だ」
挨拶をしに来た商人たちが去って行ったタイミングを見計らって、詞織が小声で案じて来た。
完全に下がったわけではないが、身体はかなり楽になっている。
おそらく、自分が寝ている間に、治療用の謳魔法か何かを使ったのだろう。
けれど、彼女が何も言わないのをいいことに、アピスは触れないようにした。
少女が勝手にやったことだ。
借りを作ったなんて思いたくはない。
礼を言えば、借りを作ったと認めることになる。
そんなことを考える自分を、ガキか、と心の中で嗤った。
やがて、晩餐会の司会を担当する者に促され、歌を謳う為に詞織が壇上へ上がる。
進行役を務める男が詞織を紹介すると、少女は優雅に礼をした。
その動作は、アピスの優雅な振る舞いに引けを取らない。
胸の前で一度両手を組むと、彼女は右手を伸ばし、桃色の小さな唇をゆっくりと開いた。