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たとえば、キミを愛する倖せ【短・中編集】

第1章 たとえば、君に名を呼ばれる倖せ【名探偵コナン/安室 透】


 ポアロヘ欠勤の連絡を入れた安室は、携帯で周囲の地図を検索し、部下に探索の指示を出した。
 自動車を使い、最短で行ける、人気のない建物。

 その中で、最も可能性の高い場所には自分が向かう。

 愛車を走らせ、路地を少し入った場所にある廃ビルの前に止めれば、同時に「ガンッ!」と何かを蹴飛ばす音が聞こえた。
 安室は慌てて自動車を降り、声を張り上げる。

「詞織さん! いるんですか⁉」

 けれど、人の気配はあるが、応答はない。

 廃ビルは四階建てで、ざっと数えただけでも、各階ごとに六部屋はありそうだ。
 それを一つ一つ確認するだけの時間は惜しい。

 そんなことを考えていると。
 微かに、細い旋律が聞こえた。
 よく耳を澄ませば、それは次第にはっきりと歌となって耳に滑り込んでくる。


 ――わすれないで この旋律(メロディー)を

 ――黄金(こがね)の風に乗せ 紡がれた想い


 止まりそうになる足を叱咤し、安室はその歌声を辿った。
 階段を段飛ばしで駆け上がり、二階に上がってすぐの部屋に駆け込む。

「詞織さんッ‼」

 名前を呼べば、見覚えのある三人の男たちの奥で、小さく震える詞織の姿があった。
 大粒の涙に揺れる琥珀の瞳が安室の姿を捉え、至極の旋律を紡いでいた小さな唇を開く。

「安室……さ……」

 詞織の頼りなく泣いている姿に、安室は一気に頭へ血が昇るのを感じた。

 男たちを押し退け、彼は詞織を抱き締める。
 そうすれば、彼女は安室の胸に顔を押しつけ、ギュッと背中に手を回した。

 そして、安室は低い声で彼らに告げる。
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