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たとえば、キミを愛する倖せ【短・中編集】

第1章 たとえば、君に名を呼ばれる倖せ【名探偵コナン/安室 透】


 カランカランとドアベルが鳴ると、先に出勤していた梓が、「いらっしゃいませ」と声を掛ける。
 同時に詞織の姿を見つけ、「あ!」と目を丸くした。

 安室はそれに気づかないふりをして、彼女をカウンター席へと案内し、メニュー表を渡す。

「それじゃあ、僕は着替えてきますので」

「はい。お疲れさまです」

 詞織の微笑に、胸が甘いさざ波を立てた。
 いったい、自分はどうしてしまったのだろうか。

 そんなことを考えながらスタッフルームへ向かっていると、梓が詞織に声を掛けていた。

「あの、この前に来たときに聞いたんですけど。詞織さんがあの『DIVA』なんですよね?」

 その言葉を、詞織は存外あっさりと肯定する。
 恥ずかしいから隠していると言っていた。
 しかし、実際は意図して公言していないというほうが正しいのかもしれない。

 いつ来てもいいように準備をしていたのか。
 前言の通りにサインをもらう梓に、どこか居心地の悪い、もやもやとした感情を抱いた。

 それから安室は、いつも通りに接客して、料理を作って。

 その間、彼女はカウンター席で、ほっそりとした指でピアノを弾くように動かしながら、五線譜に音符を書きつけていた。
 たまに、小さな声で歌を口ずさみ、さらにそれを音符として書き連ねていく。

「何をしているんですか?」

 無性に彼女の声が聞きたくなって尋ねると、詞織は照れたようにはにかみながら、「えっと……」と口ごもった。

「……曲を、書いているんです」

 好きだから。

 その言葉に、安室の心臓が跳ねた。
 好きだと言ったのは、曲を作ることに対してであって、自分のことではない。

 そんなことは分かっているのに。
 思春期の中学生か、と冷静な自分がツッコむ。
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