第7章 たとえば、君を語る倖せ【クロスオーバー】
*Side 日番谷*
「日番谷隊長!」
小雨になった雨の中で、聞き慣れた声に呼び止められる。
「日生か」
正面から走ってくるのは、中学生ほどの年齢の少女――護廷十三隊 十番隊第三席の日生 詞織だ。
駆け寄ってきた少女の額を、日番谷は軽く小突く。
「ぃた……っ」
「止める間もなく走って行きやがって」
「申し訳ありません」
本気で怒っているわけではないが、どうしても強い口調になってしまう。
しかし、少女もそのことは分かっているのだろう。
無機質な紅黄色の瞳には、さざ波一つ立っていない。
まぁ、詞織が無事ならばそれでいい。
「次は俺も連れて行け」
「え……? ですが、日番谷隊長の手を煩わせるほどのことでは……」
「ここが隊舎ならそうするが、こんな人気(ひとけ)の多い場所でただ待ってんのも退屈だ」
「……そうですか。分かりました。次は同行して頂きます」
少し間があったのは、想像してみたのだろう。
まったく。
詞織が自分を置いていったばかりに、面倒な連中に巻き込まれてしまったのだ。
そのことを思い出し、日番谷はふと思いついて詞織を呼んだ。
「日生、少しこっちを向け」
「はい、分かりました」
首を傾げつつ、少女は上官の指示に従う。
少し見上げる位置にある詞織の顔を見つめること数秒。
白い肌に大きな紅黄色の瞳。
目鼻立ちは整っている方だと思う。
「……何か食って行くか?」
「"けーき"ですか?」
キラーンッと無機質な瞳に光が灯る。