第7章 たとえば、君を語る倖せ【クロスオーバー】
「膝、貸してくれる?」
「ど、どうぞ!」
一緒にいたい、と言われて嬉しかったのか。
詞織は顔を赤くして膝を差し出した。
彼女の柔らかな膝に頭を乗せ、アピスはベッドに横たわる。
そうすることで、ようやく肩の力を抜くことができた。
ごろりと仰向けになると、詞織の黒い瞳と視線が交わる。
彼女は照れくさそうにはにかみ、優しい手つきでアピスの髪を撫でた。
接触を嫌うアピスが唯一、それを許せる相手。
悪寒を感じるどころか、穏やかな温もりが胸を満たした。
「歌、聴かせて。君が足りないんだ。全然」
「三日もどこにいたんですか? 王妃様、すごく心配して、食事も取られなかったんですよ?」
「どこにいたのか、僕が知りたいくらいだけど」
王妃――自身の母親の話題に、アピスは条件反射で眉を寄せる。
何かと愛情と期待を押しつけてくる母親が、アピスは苦手だ。
「まぁ、その話はまた今度ね」
「はい」
深く詮索してこない彼女の距離の取り方に、アピスは居心地の良さを感じた。
詞織が軽く息を吸い込み、ゆったりとした旋律を奏でる。
夜空の星が瞬くような繊細な歌声に、アピスは耳を傾けた。
どんな彼女も好きだが、自分のためにだけに歌う詞織の姿が、アピスは一番好きだった。
この想いが、誰かに負けるわけない。
ようやく手に入れた、絶対に手放したくないもの。
閉じ込めて、誰の目にも触れないようにしたい。
そんなことを思いながら、アピスは詞織に手を伸ばし、そっと頬に触れた。